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2月25日から28日までフランスのニースにて世界食品安全会議2019が開催されました。
初日のプレナリー1では、日本の農林水産省・渡辺一行氏が、保守的な官庁の弱点克服へのチャレンジとして、オープン・ラボの官民連携フレームワークについて紹介されました。

<GFSIジャパンローカルグループ・コミュニケーションWG>(以下、GFSI)
まずは講演のご登壇お疲れ様でした。多くの聴衆の前での講演となりましたが緊張されましたか?
<渡辺一行氏>(以下、渡辺氏)
英語のプレゼンテーションは十数年ぶりという事もあり、かなり緊張しました。
Watanabe GFSI19(GFSI)60か国以上、1,000人を超える食品安全のステークホルダーの皆様の前で講演されたことに対する率直な感想は?
(渡辺氏)感想としては3つあります。

 

・1つめとしては、当初講演内容は本当にオープン・ラボの話で良いのかと悩んでいましたが、発表した印象として割と受けは良かったのではないかと思います。
・2つめはこれだけ多くの国々の聴衆の前で日本の政策を発表する機会はなかなかないことなので、エポックメイキングとしても非常によい機会であったと思います。
・最後の感想として、これまで300人ほどの前でプレゼンしたことはありましたが、1,000人以上の前というのは初めての経験で、もう少し修業が必要だと感じました。あと(GFSIさんから)サポートがあったので最後に笑いを取ることができました。

(GFSI)本投稿を読まれる方は講演を聞いていらっしゃらないので、改めて講演内容についてご紹介いただけますか?
(渡辺氏)昨年から農水省で取り組み始めた政策懇談会についてお話しし、官民連携のパブリック、プライベートの取り組みをご紹介しました。
(GFSI)オープン・ラボのスキームを作られた理由を伺えますか?
(渡辺氏)組織や政策の作り方が硬直的である点を日本の行政機関が抱えている問題と感じており、政策立案過程にオープンイノベーションを持ってくることを目的として取り組みを開始しました。

Watanabe slide

(GFSI)そういう背景から最初のスライドにつながるかと思うのですが、スライドで説明された環境要因に関して詳しく聞かせていただけますか。
(渡辺氏)日本社会の特徴として、物事を決めるのに保守的になる傾向があります。そこで、微量でも新しいやり方を入れると、社会の在り方に化学変化を起こすことができるのではないか、という思いでオープン・ラボを立ち上げました。新しいことに関わっているアンテナの高い人が政策立案過程に関わる、すなわち個人の能力を使って、自分たちがやりたいことを政策提言として内製化していくことを目指しています。

(GFSI)”農水省は保守的である”と、講演冒頭から非常にインパクトのある始まりでしたが、あれが一番伝えられたかったことでしょうか?
(渡辺氏)問題意識として持っていることです。行政だから基本的に保守的で良いと思いますが、産業政策を語るとき、保守的な姿勢ではできないことも多くあるので、敢えてその点を揶揄して表現しました。
(GFSI)これまでのオープン・ラボの活動結果について、まずは立ち上げの経緯と立ち上がってからについて教えてください。

(渡辺氏)前述の問題意識を打ち破るために、オープン・ラボのような仕組みが必要ではないかと考えたのがきっかけでした。そこで霞が関の中で若手が政策提言をするというのは他の省庁を含めて盛り上がってきている中、農水省としてどうするかという話題になり、そういった気運の中、若手職員の中で変えていきたいと志を持ったものを中心として仕組化していきました。
オープン・ラボのテーマは春と秋に募集をし、現時点では打率5割、残っているテーマとしては3つあり、上層部も応援してくれています。今回の講演でお話しした3D プリンターのテーマはその中の1つですが、とにかく省外の方々と繋がるというのが重要だと思っています。議論を重ね、新たな技術を用いる際に法整備に関する問題点を見出しながら、どういうことが行政としてできるかを検討しています。
(GFSI)人は特に口にする食べ物に関しては、従来にない新たな技術に対して抵抗を覚えがちですが、何か啓蒙活動など考えておられますか?例えば今回ご紹介された3Dプリンターで作った料理を食べたい気にさせるにはどうすればよいか?

(渡辺氏)どういう手段・手法が良いかは常に考えています。確かに食べ物は日常に接するものなので非常に保守的です。ただ、サステイナブルな食品産業を作るには、新しい技術を活用する必要があると考えています。その上で啓発手段を考えるにあたって、人はどういう行動変容がある時新しいものを食べる心理になるのか、ということを政策立案の上で意識する必要があります。経済原理や、科学的合理性だけでなく、人間は時々非合理な選択をする生き物

です。その上で人間心理がどのように非合理な決定をするのか、ということまで含めて考えられる政策立案者を農水省の中でどう育成していくかという事は重要なことです。省内にいないのなら、省外でうまくコーディネート出来る学者、有識者、もしくは民間企業の方々の知見を有効に活用できる仕組みが必要だと思っています。ただ、私自身も一人の消費者ではありますが、どうしても業務になってしまうと人は非合理な選択をするものだという点を忘れてしまいます。政策としてどの様に人間心理を反映させるかという事を考える必要もあります。

Watanabe GFSI19 photowall(GFSI)3Dフードプリンターの将来の展望(スケジュールや最終到達点をどのように考えているか)に関して教えてください。
(渡辺氏)どのくらい先に、何を実現するかに関しては、レベル分けをして市場を考えたほうがいいと思っています。3Dフードプリンターに関しては二種類があり、一つ目の今回講演した寿司テレポーテーションに関してはキューブ状の材料を組み合わせて使う技術を用いるので、スピードとキューブをどう組み合わせるかが技術的課題ですが、方向性もわかっているので、意外と実現は早いのではないかと思っています。エンターテイメントレストランが2~3年以内には実現できるレベルにあります。もう一つの層を重ねて食品に仕上げるというものに関しては、まだまだ検討が必要な状況です。既にウエディングケーキに使う砂糖菓子や、チョコレートなど単一材料については実用化が始まっていますが、複数の材料から構成される食品を作るには、まだまだ時間がかかると思われます。

ただ、今後の展開として3Dフードプリンターはパーソナライゼーションしやすいと思っています。例えばアレルギー反応が出る材料を除いた食材を作るなど、各個人に最適な食材を作ることが可能になってくると思っています。一方、今後複数材料で作られたものから、化学反応等で毒性があるものが生まれたらどうするといった法整備に関してはまだまだ検討しなければなりません。そういったことから、単なる技術的な側面と食品安全上の課題をどう両立していくか、それをどのくらいのスパンで商品化、法整備していくかという部分は、まだまだ課題が多いと認識しています。

(GFSI)最後にオープン・ラボの活動を通して、日本の食の未来に関して取り組んでいらっしゃる中、日本の食の未来がどうなればよいと思われますか?
(渡辺氏)日本には歴史的背景を反映した、他の地域には真似のできない地域に根差した食文化があり、これはグローバルな視点から見ても日本の大きな強みであると考えています。この強みを活かすことで、地域の歴史文化やストーリーなどをマネタイズできるのではないかと思っており、若い世代が日本の農業はかっこよくワクワクする産業だと感じる「新産業」として成り立つように、政策的に支援していきたいという思いでいます。
(GFSI)本日は興奮冷めやらぬなかインタビューに答えて頂き、ありがとうございました。 

 


Takeuchi headshot文責:GFSI日本ローカル・グループ コミュニケーションWG
株式会社三菱ケミカルホールディングス 先端技術・事業開発室 竹内康雄