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Technology Agriculture Copie

日本国内ではこれまで高付加価値型農業を牽引してきた農業従事者の高齢化により、その経験や勘の継承が困難な状況に面しています。
また、他国では最新技術の導入により農業の生産性向上と経営改善が促進されており、日本においてもこれらの課題に対する取り組みが進められています。

今回、農業に求められる情報をネット上で共有化する農業データ連携プラットフォーム「WAGRI」構築に取り組んでおられる神成教授に、同プラットフォーム構築の背景と今後について伺いました。

 

WAGRI founder

(GFSI日本ローカル・グループ コミュニケーションWG 以下GFSI)
まずはWAGRIを立ち上げるに至った背景について、お聞かせください。

(慶應義塾大学環境情報学部 神成淳司教授 以下神成教授)
日本国内には農業に関係する様々なデータが存在していますが、それらデータがバラバラに存在しており、また、データやサービスの相互連携が無いため、せっかくのデータを活かしきれていない状況です。これらのバラバラな情報を連携することにより、大きなメリットが生まれると考えたのがきっかけです。例えば、今では携帯電話会社が異なってもメールのやり取りができないといった現象はありませんよね。そのイメージでお互いの壁をなくし、よりお互いに有益な情報共有ができるシステムが必要と感じたのです。
そこで、3年ほど前から農林水産省と共に、データを活用した農業の将来像について議論を始めており、現在半年ごとの頻度で勉強会を行っています。

(GFSI)「WAGRI」とは様々なデータやサービスを連携させる「輪」とコミュニティの調和を促す「和」、そして農業分野でのイノベーションへの期待から生まれた造語ということですが、この農業データ連携プラットフォーム「WAGRI」の概要について教えていただけますか?

(神成教授)今までの日本の農業データは、様々な農業に関する情報サービスが生まれているにもかかわらず、一般に公開されている情報に関する「協調領域」と、付加価値のある情報に関する「競争領域」とが入り交ざっていました。しかし、今はスマホを開けばインターネットで何でも検索できる時代となり、地図や気象データの閲覧に料金を支払う時代ではなくなってきています。そこで、既にあるITではなく、一から新しくインターフェースを作り上げ、機能を持たせることとしたのがWAGRIです。

WAGRIは「B to C」ではなく「B to B to C」の形で運営しており、WAGRIのプラットフォーム上では気象や農地、地図情報等の公的データを提供し、付加価値のあるデータは有償とすることで、民間企業が行うサービスの充実や新たなサービスの創出を促し、農業関係者が様々なサービスを選択・活用できるようにしています。
これにより、農家にとってはベンダーロックがかかりにくい状況となり、また企業にとっても自社サービスの拡充につながるものになると考えています。

(GFSI)具体的にはどのようなデータやサービスが提供されているのでしょうか?

(神成教授)現在は研究プロジェクト段階のためB2Cを有償で行わないことを条件に、200を超えるAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)を実装しています。
APIとは複数のアプリケーション等を接続(連携)するために必要なプログラムを定めた規約なのですが、例えば、天候データと予測、土壌図、生育予測システムなど、複数のAPIを組み合わせることで、生産者にとって有益となりうるデータを取得することが可能です。将来的には「データやサービスの取引市場」を創りたいと考えています。

(GFSI)現在は個人の入会は受け付けておられませんが、WAGRIを活用することにより、農家や流通、小売など各ステークホルダーはどのようなメリットがあるのでしょうか?

(神成教授)生産者だけでなく、商社やサービス業等の事業者もWAGRIを利用されている方はおられるので、導入のメリットはそのステークホルダーごとに異なりますが、農家の方々にとっては農薬の使用基準との適合性確認等、様々な農業に関連したデータの取得が可能です。また、話すだけで日々の記録を自動的に集積してくれるシステムがあれば、より作業負担の軽減につながると考え、音声認識サービスも検討していていますし、隣の農家からの農薬ドリフトの問題への対応等、より有益なデータが得られるよう様々な実証実験を実施しています。また、プログラマーやエンジニアに依頼しなくても、API構築できる支援ツールも提供予定です。

(GFSI)では、課題と考えておられることはありますか?

(神成教授)今後いかにビジネスモデルの転換を図れるかがポイントだと考えています。現在は生産に関するデータの蓄積が進んでいますが、生産だけではメリットを感じにくい部分もあります。生産から流通、加工、消費までデータの相互活用が可能な「スマートフードチェーン」を構築していけるかどうかが重要だと考えています。

(GFSI)会員費やAPI使用料などの費用面や、GAP認証など食品安全の調達基準へのWAGRIの活用可能性について伺えますか?

(神成教授)今年度は内閣府予算として行っている関係で費用は請求していませんが、参加企業に対しては、来年以降の本格稼働開始に伴い、使用料が必要となる見込みです。
また、食品安全の調達基準については、スマートフードチェーン、HACCP/GAPの一貫した仕組みとして活用できるのではないかと思います。

(GFSI)データのセキュリティや正確性について伺えますか?

(神成教授)データセキュリティについては、私自身サイバーセキュリティの専門家でもありますから、十分意識して取り組み、一定基準のセキュリティが確保されています。
データの正確性に関しては、入力されたデータが改ざんされないことの保証を行っており、事業者から提供されるデータそのものの保証は事業者の責任としています。

(GFSI)日本国内の農業は、現在、農業従事者の高齢化問題や後継者不足といった問題を抱えていますが、WAGRIとしてどのような貢献ができると考えておられますか?

(神成教授)このプロジェクトは、熟練技能の継承と後継者不足問題解消から立ち上がったものです。農業技術指導員も技術指導の小まめなケアができない中、これまでの親から子供に引き継ぐスタイルから転換し、WAGRIのIT(情報通信技術)を活用することで、熟練技術を後継者に継承できると考えています。

WAGRIを通じて、CSA(Community Supported Agriculture)という、新たな形の農業コミュニティが生まれてきていると考えてもらうとよいと思います。つまり、ネット上に農業コミュニティが生まれてきているのです。

(GFSI)高齢者にとって、ハードルが高いように思うのですが?

(神成教授)高齢者であっても、WAGRIの有用性や収益性を実感していただければ活用してもらえると思いますし、収入に直結する話であれば更に積極的に取り組んでいただけるはずだと考えています。例えば香川県では高齢の女性がタブレットを使いながら活用してくださっていますので、年齢が問題ではなく結局は「便利だったら使う」というシンプルな話なのではないかと思います。その「便利さ」を決めるのがインターフェースであり、それを使うことによって得られる「収入」が活用につながるのだと思います。そのためにも、実証実験を通じてインターフェースを改善していますし、音声認識サービスなど、取り組みやすい機能の提供に尽力しています。

今回、WAGRIのお話を伺い農業が今大きな変化を遂げようとしていることを、ひしひしと感じることが出来ました。農業に最新技術を取り込んだWAGRIの実現により、生産性や経営に悩む農家にとって農業データを駆使した攻めの農業が可能となり、農業が日本の成長産業となることが期待されるお話でした。神成教授、そしてWAGRI、内閣官房の皆様、貴重なお時間どうもありがとうございました。

 


(文責:GFSI日本ローカル・グループ コミュニケーションWG)

【農業データ連携基盤協議会(WAGRI)】 https://wagri.net/

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